AI(人工知能)はどこまで進化するのか?

AIによる囲碁の世界の変貌

そもそも、AIの能力の凄さに世界中が驚愕したのは、囲碁の世界における“アルファ碁”の活躍であった。囲碁は、チェスや将棋とは違って無限ともいえる空間認識が必要である。さらに、“打って返し”、“劫(こう)争い”、“嵌め手(はめて)”など難解なテクニックが展開される。

そのため、AIがプロの高段者に勝つには後10年は必要と考えられていたのである。
それが、“アルファ碁”の登場によって、アッという間に世界最強の棋士ですらAIに勝てなくなってしまったのだ。それから2年が経過したが、囲碁の世界はAIの影響を受けて様変わりである。

今では、プロ棋士同士の戦いを見ると、必ずAIの手筋が出てくるのである。かつては、“定石はずれで筋が悪い”、と言われていた手をプロ棋士が頻繁に打っているのである。
最初の1手から隅の三・三に入ったり、いきなり「天元」に打ったりする局も増えている。
下の図は、AIに勝った初手「天元」の珍しい布石である。盤のど真ん中に一手目が打たれている。

AI(人工知能)はどこまで進化するのか?

初手「天元」の珍しい布石(「日々ネット」より )

ところで、アルファ碁が驚異的に強くなったのは、あの“深層学習”の成果である。AIが学習をしたのは、歴代のプロ棋士達が打った棋譜である。その膨大なデータベースの中には、初手「天元」とか、初手「三・三」のような変則的で悪手と呼ばれる布石はごく稀であった筈だ。

それにもかかわらず、AIは平気で“悪手”を打ち、定石と呼ばれた打ち方を変えて、プロ棋士を遥かにしのぐ棋士になっている。一体これはどうしたことか?
レンブラントやバッハなどから学習した絵画や作曲の世界とは何が違うのか?

「答えは膨大なデータベースの作り方とその使い方にある」、というのが筆者の考えである。
囲碁の世界では、AIは過去の名棋士を相手に、膨大なシミュレーションを繰り返して勝ち方を探っている。優れた棋譜データがあったから、AIには全く違う勝ち方、打ち方が見えてきたのだ。
AIを生かすのは、質のよい膨大なデータベースなのである。これはヒントの塊なのだ。

芸術の世界も、過去の膨大な資産をまずどういうデータベースにするかが課題であると思う。
肖像画の場合では、色の塗り方や絵の具の厚さなどをデータ化するだけでは不十分な筈だ。
レンブラントの肖像画の場合を例にとれば、彼のそもそもの着想や構図、それを鑑賞した者の感動の所以、心を動かされた部分などをデータ化することを研究すべきなのではないだろうか。
楽譜がある作曲の世界と違って絵画のデータ化は難しい要素が多い。
その分、挑戦のし甲斐がある。是非、この分野で日本が先陣を切って貰いたいものだ。

結論

AIはさらなる進化を遂げていくに違いない。
筆者の囲碁の先生も、最初はAIの打ち方を嫌っていたが、最近ではAIの研究に余念がない。
AIの打ち方をマスターしないと最近の若手に勝てなくなっているかららしい。
AIを毛嫌いするのではなく、我々の仕事や日常を豊かなものとしていく度量と知恵が必要である。

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